アメリカのショッピングセンターを視察すると、日本のショッピングセンターとは大きく異なる印象を受けることがあります。
広大な駐車場、低層の建物、道路沿いに並ぶ店舗、食品スーパーを中心としたテナント構成、大型専門店、レストラン、サービス店舗など、日本とは異なるSCの姿を見ることができます。
一方で、アメリカのSCと日本のSCには共通する部分もあります。
どちらも、
- 商圏の顧客を集める
- 複数のテナントを組み合わせる
- 核テナントによって集客する
- テナントミックスによって施設価値を高める
- リーシングによってSCの競争力を維持する
という基本的な考え方は共通しています。
では、なぜ見た目や運営方法がこれほど違うのでしょうか。
大きな理由は、国土・人口密度・自動車利用・都市構造・小売業態・不動産市場などの違いにあります。
この記事では、アメリカのショッピングセンターと日本のSCの違いを、施設構成、立地、交通、テナント、リーシング、商圏、集客方法などの観点から比較します。
- そもそもアメリカの「ショッピングセンター」とは?
- 日本とアメリカのSCの最大の違いは「オープンエア型の多さ」
- 日本とアメリカでは「車」の位置づけが違う
- 「館内回遊」より「車でのアクセス」が重要なケースが多い
- アメリカでは「食品スーパー」が非常に強い核になりやすい
- アメリカのSCでは「サービス」の存在感が大きい
- 日本のSCは「建物」、アメリカのSCは「敷地全体」で考える傾向が強い
- アメリカでは「1SC=1つの建物」とは限らない
- アメリカのSCでは「日常生活圏」が重要
- 日本のSCは「大型化・複合化」が進んできた
- アメリカと日本のSCを比較すると
- アメリカSCのリーシングで参考になるポイント
- アメリカのSCをそのまま日本に持ち込めばよいわけではない
- まとめ|アメリカのSCと日本のSCは「構造」が違う
そもそもアメリカの「ショッピングセンター」とは?
日本では「ショッピングセンター」というと、イオンモールやららぽーと、駅ビルなど、比較的大型の商業施設をイメージすることがあります。
一方、アメリカではショッピングセンターの範囲が非常に広く、
- Neighborhood Center
- Community Center
- Power Center
- Strip Center
- Lifestyle Center
- Outlet Center
- Regional Mall
など、さまざまなタイプがあります。
ICSC(International Council of Shopping Centers)は、アメリカのショッピングセンターについて、オープンエア型のNeighborhood Center、Community Center、Power Center、Lifestyle Center、Outlet Centerなど、多様なタイプを扱っています。
また、ICSCの資料では、米国のショッピングセンターの大部分がオープンエア型であると説明されています。(icsc.com)
つまり、
「アメリカのショッピングセンター=巨大なモール」
ではありません。
むしろ、日常生活圏にある比較的小規模なオープンエア型SCが非常に重要な位置を占めています。
日本とアメリカのSCの最大の違いは「オープンエア型の多さ」
日本の大型SCでは、
- 屋内型モール
- 1階・2階・3階の複層構造
- 屋内共用部
- エスカレーター
- フードコート
- 館内イベント
などが一般的です。
一方、アメリカでは、
駐車場+低層店舗+屋外動線
というSCが非常に多く見られます。
例えば、
駐車場
↓
食品スーパー
↓
ドラッグストア
↓
レストラン
↓
美容・医療・サービス
↓
専門店
という構成です。
店舗間を車で移動することも珍しくありません。
ICSCは、米国のオープンエア型センターについて、食品・日用品を扱う店舗を中心に、飲食や医療・健康関連などが組み合わされていることを紹介しています。(icsc.com)
日本では「館内を歩いて回遊する」ことがSC設計の重要な要素になりますが、アメリカでは、
「車でアクセスして、必要な店舗を効率的に利用する」
というSCも非常に重要です。
日本とアメリカでは「車」の位置づけが違う
SCの違いを理解するうえで、自動車は非常に重要な要素です。
日本では、
- 鉄道
- 徒歩
- 自転車
- バス
- 自動車
など複数の交通手段がSCへのアクセスを支えています。
一方、アメリカの郊外では自動車の役割が非常に大きくなります。
そのためSCでは、
店舗面積だけではなく、駐車場や道路からのアクセスが重要な商業資産
になります。
例えば、
- 駐車場の台数
- 駐車しやすさ
- 主要道路からの視認性
- 交差点からのアクセス
- 出入口の数
- 敷地内の車両動線
などがSCの競争力に影響します。
これは日本のSCでも重要ですが、アメリカではさらに大きな意味を持ちます。
「館内回遊」より「車でのアクセス」が重要なケースが多い
日本のSCでは、
「食品スーパーに来た顧客を、ファッションや飲食へ回遊させる」
という考え方が重要です。
一方、アメリカのオープンエア型SCでは、
「食品スーパーに行ったついでに、隣のレストランやドラッグストアへ行く」
という利用が起こります。
つまり、回遊の考え方そのものが異なります。
日本:
館内回遊
アメリカのオープンエア型:
敷地内・近隣店舗間のクロスショッピング
という違いです。
そのため、アメリカのSCではテナント間の距離や視認性、駐車場からのアクセスもリーシング上重要になります。
アメリカでは「食品スーパー」が非常に強い核になりやすい
日本のSCでは、
- GMS
- 食品スーパー
- 百貨店
- 大型専門店
などが核テナントになります。
アメリカでは食品スーパーを核とするSCが非常に重要な位置を占めています。
ICSCも2025年の市場動向で、Grocery-Anchored Shopping Center(食品スーパーを核とするSC)への投資・関心が強いことを紹介しています。(icsc.com)
食品スーパーを核に、
- ドラッグストア
- レストラン
- カフェ
- 美容
- フィットネス
- 医療
- サービス
- 専門店
などを周辺に配置することで、日常的な来館需要をつくります。
2025年のICSCの記事でも、食品スーパーとファッション・サービスなどを組み合わせた「grocery-lifestyle hybrid」が今後の小売施設の形として取り上げられています。(icsc.com)
これは日本のNSCやCSCにも近い考え方ですが、アメリカでは非常に大きなSC市場を形成しています。
アメリカのSCでは「サービス」の存在感が大きい
アメリカのSCを視察すると、
- 歯科
- 医療
- 美容
- ネイル
- フィットネス
- ペット
- クリーニング
- 保険
- 金融
- 教育
などのサービス店舗が多いことに気づきます。
特にStrip Centerでは、物販だけではなく、
「食べる・運動する・治療する・美容・生活サービスを利用する」
という用途が重要です。
ICSCの紹介でも、Strip Centerでは飲食、フィットネス、歯科、美容などのサービス利用が大きな来館目的になっていると説明されています。(icsc.com)
これは日本のSCでも今後さらに重要になる可能性があります。
日本ショッピングセンター協会の2025年データでも、SCテナントに占めるサービスの構成比は20.8%となっており、2020年の19.9%から上昇しています。(jcsc.or.jp)
つまり、日米で共通して、
「物を売る店舗だけではなく、サービスを提供する店舗がSCの重要な構成要素になっている」
という変化が見られます。
日本のSCは「建物」、アメリカのSCは「敷地全体」で考える傾向が強い
SCを開発・運営する際の視点にも違いがあります。
日本の大型SCでは、
建物内部のMD・動線・フロア構成
が非常に重要です。
一方、アメリカのオープンエア型SCでは、
敷地全体のテナント配置・駐車場・道路アクセス・視認性
が重要になります。
例えば、
道路
↓
大型看板
↓
駐車場
↓
食品スーパー
↓
専門店・飲食
↓
別の大型テナント
というように、施設全体を一つの商業エリアとして設計します。
したがって、アメリカのリーシングでは、
「この区画に何を入れるか」だけではなく、「この敷地にどのような店舗配置をつくるか」
という視点が重要です。
アメリカでは「1SC=1つの建物」とは限らない
日本の大型SCでは、一つの建物に多数のテナントを集約することが一般的です。
一方、アメリカのオープンエア型SCでは、
- 大型スーパー
- ドラッグストア
- レストラン
- 専門店
- サービス店舗
などが同一敷地内に分散して配置されるケースがあります。
そのため、SCの境界や「どこまでを一つの商業施設として捉えるか」が、日本より柔軟です。
この違いは、アメリカの商業施設を見る際に非常に重要です。
アメリカのSCでは「日常生活圏」が重要
アメリカのSCは、必ずしも「遠くから顧客を呼ぶ大型商業施設」だけではありません。
Neighborhood CenterやCommunity Centerでは、
近隣住民の日常生活を支える
ことが重要な役割になります。
例えば、
食品
+
ドラッグ
+
飲食
+
美容
+
医療
+
フィットネス
+
生活サービス
という構成です。
これは日本のNSCと似ています。
一方で、両国には大きな違いもあります。
日本では駅・徒歩圏を中心とした商業集積が重要ですが、アメリカの郊外SCでは、車で10~15分程度の生活圏を前提にした施設づくりが重要になります。
2025年のICSC記事でも、食品スーパーを中心に、日常生活に必要な店舗をまとめる「grocery-lifestyle hybrid」への関心が紹介されています。(icsc.com)
日本のSCは「大型化・複合化」が進んできた
日本では、
- イオンモール
- ららぽーと
- ゆめタウン
- アリオ
- モゾ
- アウトレットモール
など、大型SCが発展してきました。
日本ショッピングセンター協会によると、2025年末の国内SCは3,013施設で、50,000㎡以上のSCは182施設です。一方、10,000~30,000㎡未満が1,355施設と最も多く、SCは大型施設だけで構成されているわけではありません。(jcsc.or.jp)
つまり日本でも、
大型モール型+地域密着型SC
という多様な構成になっています。
この点では、アメリカとの違いは「大型か小型か」だけではなく、
どのような都市構造・交通環境の中でSCを成立させているか
にあります。
アメリカと日本のSCを比較すると
ここまでの違いを整理すると、次のようになります。
| 項目 | アメリカのSC | 日本のSC |
|---|---|---|
| 代表的施設 | オープンエア、Strip、Grocery-Anchored、Power Center、Mallなど | RSC、CSC、NSC、駅ビル、アウトレットなど |
| 建物 | 低層・屋外動線が多い | 屋内型・複層型が多い |
| 交通 | 自動車中心の郊外型が多い | 鉄道・徒歩・自動車を組み合わせる |
| 駐車場 | 非常に重要 | 重要 |
| 核テナント | 食品スーパー、大型専門店など | GMS、食品スーパー、百貨店、大型専門店など |
| 食品 | 非常に重要 | 重要 |
| サービス | 医療・美容・フィットネス等が多い | 増加傾向 |
| 回遊 | 敷地内・店舗間のクロスショッピング | 館内回遊が重要 |
| テナント配置 | 敷地全体で考える | フロア・館内動線を重視 |
| 集客 | 日常利用+目的来館 | 日常利用+目的来館 |
| SCの役割 | 生活圏の商業集積 | 商業・サービス・体験・交流の複合拠点 |
| リーシング | 敷地・アクセス・用途の組み合わせが重要 | 館内MD・区画・回遊との組み合わせが重要 |
アメリカSCのリーシングで参考になるポイント
アメリカのSCを研究するうえで、日本のSC開発・リーシングに参考になるポイントもあります。
1.「食品+サービス」の組み合わせ
食品スーパーを単独の核テナントとして見るのではなく、
食品+医療+美容+フィットネス+飲食+生活サービス
という生活圏型SCを構築する考え方です。
2.大型SCだけを考えない
日本では大型SCの視察が注目されがちですが、アメリカではNeighborhood CenterやStrip Centerなど、小規模な商業施設も重要です。
特に人口減少時代には、
「大型SCをつくる」だけでなく「既存商業施設を生活圏型に再構築する」
という視点が参考になります。
3.敷地全体でリーシングする
建物の中だけを見るのではなく、
- 駐車場
- 道路
- 視認性
- サイン
- 店舗配置
- 出入口
- テナント間の距離
まで含めて考えます。
これは日本の郊外SCでも応用できる考え方です。
4.サービステナントを戦略的に活用する
物販だけではなく、
- 医療
- 美容
- フィットネス
- ペット
- 教育
- 生活サービス
などを組み合わせることで、日常的な利用目的を増やすことができます。
5.「15分生活圏」の発想
アメリカでは、食品スーパーを中心として、生活に必要なサービスや店舗を近接させる動きが見られます。
2025年のICSC記事では、消費者が複数の場所を回るのではなく、15分程度のドライブ圏内でワンストップの買い物を済ませたいという考え方が紹介されています。これはあくまで業界関係者による見解ですが、今後の生活圏型SCを考えるうえで興味深い視点です。(icsc.com)
アメリカのSCをそのまま日本に持ち込めばよいわけではない
ここは注意が必要です。
アメリカと日本では、
- 人口密度
- 土地価格
- 自動車利用
- 鉄道網
- 住宅地の構造
- 商圏人口
- 小売業態
- 賃貸借慣行
- 消費者行動
が大きく異なります。
そのため、
「アメリカのSCを日本にそのまま導入する」
という考え方は適切ではありません。
重要なのは、アメリカのSCから、
「なぜその施設構成になっているのか」
を理解することです。
例えば、オープンエア型SCが多いのは単に「アメリカ人が屋外を好むから」ではなく、広い土地、自動車中心の交通、低層建築、郊外住宅地など、複数の条件が組み合わさった結果です。
まとめ|アメリカのSCと日本のSCは「構造」が違う
アメリカと日本のショッピングセンターには、多くの共通点があります。
どちらも、
商圏分析
→ 核テナント
→ テナントミックス
→ リーシング
→ 集客
→ SC全体の価値向上
という基本構造を持っています。
一方で、施設の形には大きな違いがあります。
アメリカでは、
オープンエア型
+
自動車中心
+
食品スーパー
+
サービス
+
日常生活圏
というSCが非常に重要です。
一方、日本では、
屋内型
+
鉄道・自動車
+
大型核テナント
+
専門店
+
飲食・エンタメ
+
館内回遊
というSCが発展してきました。
今後、日本のSCが人口減少やEC化に対応していくうえでは、アメリカのSCから、
「大型化すること」ではなく、「生活圏の中で何度も利用される場所をつくること」
を学ぶことが重要です。
特に、
食品+サービス+飲食+医療+美容+フィットネス+体験
という組み合わせや、
建物単体ではなく、敷地全体・商圏全体でSCを考える
という視点は、日本のSCリーシングや既存SC再生を考えるうえでも参考になるでしょう。
アメリカのSCは、日本のSCとは異なるからこそ、これからの日本の商業施設を考えるための重要な研究対象と言えます。


