ショッピングセンター(SC)の売上や集客力を左右する重要な要素の一つが、テナント構成です。
どのテナントを入れるのか、どの業種を増やすのか、どの場所に配置するのかによって、SC全体の集客力や回遊性、滞在時間、売上は大きく変わります。
しかし、テナント構成を考える際に、
「人気のテナントを入れればいい」
「売上の高いテナントを集めればいい」
という考え方だけでは、SC全体として最適な施設にはなりません。
重要なのは、**SC全体の目的に合わせてテナントを組み合わせる「テナントミックス」**という考え方です。
さらに、実際のリーシングでは、候補となるテナントを「集客力」や「SCとの相性」などの観点から評価する必要があります。
そこで活用できるのが、リーシングマトリクスです。
この記事では、SCのテナント構成を決める基本的な考え方から、テナントミックス、リーシングマトリクスの使い方まで、実務で活用できる形で解説します。
テナントミックスとは?
テナントミックス(Tenant Mix)とは、SCに出店するテナントの業種・業態・ブランドなどを組み合わせ、SC全体として最適な店舗構成をつくることです。
単純に店舗数を増やすことではありません。
例えば、飲食店ばかりを集めても、SC全体の集客力が高まるとは限りません。
一方で、
- 食品スーパー
- ドラッグストア
- ファッション
- 雑貨
- 飲食
- サービス
- 医療
- 教育
- エンターテインメント
などを、商圏やターゲットに合わせて組み合わせることで、異なる目的を持つお客様をSCに呼び込むことができます。
つまり、
テナントミックス=「どのテナントを入れるか」ではなく、「どのような店舗の組み合わせにするか」
と考えると分かりやすいでしょう。
なぜテナントミックスが重要なのか?
テナントミックスを適切に設計することで、SCにはさまざまな効果が期待できます。
| テナントミックスの効果 | 内容 |
|---|---|
| 集客力向上 | SCに来る理由を増やす |
| 来館頻度向上 | 日常利用から目的利用まで幅を広げる |
| 回遊性向上 | 館内を歩いてもらう |
| 滞在時間向上 | 飲食・サービス・エンタメなどで滞在時間を伸ばす |
| 売上向上 | SC全体の購買機会を増やす |
| 相互送客 | テナント同士でお客様を回遊させる |
| 差別化 | 競合SCにはない組み合わせをつくる |
| 空床対策 | SCに必要な業種を明確にする |
例えば、食品スーパーを目的に来館したお客様が、ドラッグストアや100円ショップ、飲食店なども利用すれば、1回の来館で複数の消費行動が生まれます。
このように、テナント同士の組み合わせによってSC全体の価値を高めることが、テナントミックスの重要な役割です。
SCのテナント構成を決める5つのステップ
テナントミックスを考える場合、次の5段階で考えると整理しやすくなります。
STEP1:商圏を分析する
↓
STEP2:ターゲットを設定する
↓
STEP3:SCコンセプトを決める
↓
STEP4:必要なテナントを整理する
↓
STEP5:テナントを選定・配置する
この順番が重要です。
「空いている区画にテナントを入れる」という考え方から、
「お客様から逆算して必要なテナントを決める」
という考え方に変えることがポイントです。
STEP1:まず商圏を分析する
テナントミックスを考える最初のステップは、商圏分析です。
SCは商圏によって必要とされるテナントが大きく異なります。
例えば、ファミリー世帯が多い住宅地と、単身者が多い都市部では、求められる店舗が異なります。
確認したい主な項目は以下です。
| 分析項目 | 確認するポイント |
|---|---|
| 人口 | 商圏人口、人口増減 |
| 世帯 | 世帯数、世帯人員 |
| 年齢 | 子育て世帯、高齢者、若年層など |
| 所得 | 世帯所得、購買力 |
| 住宅 | 新築住宅、マンション開発 |
| 昼間人口 | オフィス・学校などの集積 |
| 交通 | 鉄道、バス、道路、駐車場 |
| 競合 | 近隣SC、スーパー、専門店 |
| 消費行動 | EC利用、購買傾向など |
例えば、子育て世帯が多い商圏であれば、
- キッズ・ベビー
- 子供服
- 玩具
- 教育
- 医療
- 飲食
- フードコート
- アミューズメント
などの需要が高くなる可能性があります。
STEP2:ターゲットを明確にする
次に、「誰に利用してもらいたいSCなのか」を明確にします。
「地域のすべての人」をターゲットにしてしまうと、テナントミックスが曖昧になりやすくなります。
例えば、
ファミリーをメインターゲットにするSC
であれば、
「子供と一緒に来館しやすい」
「家族で長時間過ごせる」
「日常の買い物が一度で完結する」
といった価値をつくる必要があります。
そのため、
食品+ドラッグ+キッズ+飲食+サービス+アミューズメント
などの組み合わせが考えられます。
STEP3:SCコンセプトを決める
ターゲットが決まったら、SCのコンセプトを明確にします。
例えば、
- 「地域の日常生活を支えるSC」
- 「子育てファミリーのためのSC」
- 「働く女性が立ち寄りやすいSC」
- 「休日を家族で楽しめるSC」
- 「地域最大級の食と生活のSC」
などです。
ここで重要なのは、
コンセプト → ターゲット → テナントミックス
の順番です。
テナントありきでSCのコンセプトを考えるのではなく、SCが目指す姿から必要なテナントを逆算します。
STEP4:必要なテナントを整理する
次に、SCに必要なテナントをカテゴリーごとに整理します。
例えば、以下のような分類ができます。
| カテゴリー | 主な役割 |
|---|---|
| 食品 | 日常利用・高頻度来館 |
| ドラッグ | 日常利用・目的来店 |
| ファッション | 集客・売上 |
| 雑貨 | 回遊・購買 |
| 飲食 | 滞在時間・集客 |
| サービス | 来館頻度 |
| 医療 | 高頻度利用 |
| 教育 | 定期来館 |
| キッズ | ファミリー集客 |
| エンタメ | 目的来館・滞在時間 |
| スポーツ | 目的来館・固定客化 |
ここで大切なのは、
「何のテナントが人気か」ではなく、「SCに何の機能が不足しているか」
を見ることです。
テナントにはそれぞれ異なる役割がある
SCのテナントを考えるときは、店舗ごとの役割を整理すると分かりやすくなります。
| テナントの役割 | 目的 | 例 |
|---|---|---|
| 集客テナント | SCに人を呼ぶ | 食品スーパー、人気専門店など |
| 売上テナント | 売上・利益を生み出す | ファッション、飲食など |
| 回遊テナント | 館内を回遊させる | 雑貨、アパレルなど |
| 利便性テナント | 日常利用を促す | ドラッグ、クリーニングなど |
| 高頻度テナント | 来館頻度を高める | 医療、教育、サービスなど |
| 滞在テナント | 滞在時間を伸ばす | 飲食、アミューズメントなど |
| 差別化テナント | 競合との差をつくる | 地域初出店、専門性の高い店舗など |
優れたテナントミックスでは、すべての店舗に同じ役割を求めません。
それぞれのテナントに役割を持たせ、その組み合わせによってSC全体を強くします。
STEP5:テナントの配置まで考える
テナントミックスは、店舗の「種類」だけでなく、どこに配置するかも重要です。
例えば、
- 入口付近
- メイン動線
- エスカレーター周辺
- フードコート周辺
- 上層階
- 奥まった区画
- 駐車場からの導線
などによって、テナントの集客力や売上は変わります。
特に集客力の高いテナントをどこに配置するかによって、館内の回遊性が大きく変わります。
例えば、奥にある区画に集客力の高いテナントを配置することで、途中の店舗にもお客様を回遊させるという方法があります。
リーシングマトリクスとは?
テナントミックスを実現するためには、「どのテナントを誘致するべきか」を判断する必要があります。
そこで活用できるのがリーシングマトリクスです。
リーシングマトリクスとは、テナント候補を複数の評価軸で整理し、「集客力が高いか」「SCとの相性が良いか」などを可視化する方法です。
例えば、
- 横軸:SCとの適合度
- 縦軸:集客力
として、テナント候補を配置します。
リーシングマトリクスの基本形
| SCとの適合度:低い | SCとの適合度:高い | |
|---|---|---|
| 集客力:高い | △ 条件次第で検討 | ◎ 最優先候補 |
| 集客力:低い | × 優先度低 | ○ 補完テナントとして検討 |
この表を使うことで、テナント候補を直感的に比較できます。
リーシングマトリクスをさらに細かく評価する
実務では、「集客力」と「SCとの適合度」だけではなく、複数の項目で評価すると精度が高まります。
例えば、以下の5項目です。
| 評価項目 | 評価する内容 |
|---|---|
| 集客力 | その店舗を目的に来館するか |
| 売上力 | 売上・坪効率が期待できるか |
| 回遊性 | 他店舗への回遊を生み出せるか |
| 来館頻度 | 日常的に利用されるか |
| SC適合度 | SCコンセプト・ターゲットと合っているか |
これを点数化して比較します。
テナント候補のリーシング評価表
例えば、5点満点で評価すると以下のようになります。
| テナント候補 | 集客力 | 売上力 | 回遊性 | 来館頻度 | SC適合度 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A社 | 5 | 5 | 4 | 3 | 5 | 22 |
| B社 | 4 | 4 | 5 | 4 | 5 | 22 |
| C社 | 5 | 3 | 3 | 2 | 3 | 16 |
| D社 | 3 | 4 | 4 | 5 | 5 | 21 |
| E社 | 2 | 3 | 3 | 5 | 4 | 17 |
このように評価すると、
「売上が高そうだからA社」
という単純な判断ではなく、
「SC全体にとってどのテナントが価値を生むのか」
という視点で判断できます。
リーシングマトリクスの実務的な使い方
リーシングマトリクスは、単にテナントを評価するだけではありません。
SCの不足カテゴリーを把握するためにも使えます。
例えば、現在のSCに、
- 食品は強い
- 飲食も充実
- ファッションも多い
- しかしキッズが弱い
- サービスも少ない
- 医療がない
という課題があったとします。
この場合、単純に「有名テナントを誘致する」のではなく、
「SCに不足している機能は何か?」
という視点でリーシングを考えます。
テナントミックスを考える際の重要ポイント
① 人気テナントだけを集めない
人気テナントを集めればSCが成功するとは限りません。
重要なのは、
人気テナント+不足機能+相互送客
の組み合わせです。
② 同じ業種を入れすぎない
例えば、同じカテゴリーの店舗が多すぎると、店舗間で顧客を奪い合う可能性があります。
一方で、競争によってSC全体の魅力が高まる場合もあります。
重要なのは、
「競合させるべきカテゴリー」と「補完させるべきカテゴリー」を分けること
です。
③ 来館頻度を意識する
SCの売上を高めるには、1回の購買額だけでなく、来館頻度も重要です。
例えば、
食品
↓
ドラッグ
↓
クリーニング
↓
医療
↓
教育
など、日常的に利用するテナントを組み合わせることで、SCへの接触頻度を高められます。
④ 回遊性を設計する
「集客テナントを入れれば終わり」ではありません。
集客テナントから他のテナントへお客様をどう流すのかを考えます。
例えば、
集客テナント → 飲食 → 雑貨 → サービス
のように、複数の目的を1回の来館で達成できるようにします。
テナントミックスは定期的に見直す
テナントミックスは、一度決めたら終わりではありません。
SCを取り巻く環境は変化します。
例えば、
- 商圏人口の変化
- 高齢化
- 子育て世帯の増減
- 競合SCの出店
- EC市場の拡大
- 新しい業態の登場
- テナントの業績悪化
- 消費者ニーズの変化
- 周辺住宅開発
などです。
そのため、定期的に
「現在のテナント構成は、現在のお客様に合っているか?」
を確認する必要があります。
テナントミックスを評価するKPI
テナントミックスを改善する際には、以下のようなKPIを確認すると効果を測定しやすくなります。
| KPI | 確認すること |
|---|---|
| 来館者数 | 集客力 |
| 来館頻度 | 日常利用 |
| 滞在時間 | 館内での過ごし方 |
| 回遊率 | 複数店舗利用 |
| 客単価 | 購買力 |
| SC売上 | SC全体の成果 |
| テナント売上 | 個別店舗の成果 |
| 空床率 | テナント構成の健全性 |
| テナント入替率 | 構成の安定性 |
| 顧客満足度 | SC全体の評価 |
特に重要なのは、個々のテナント売上だけを見るのではなく、SC全体のKPIを見ることです。
まとめ:テナントミックスは「SC全体最適」で考える
SCのテナント構成を決めるうえで重要なのが、テナントミックスという考え方です。
テナントミックスでは、
商圏
↓
ターゲット
↓
SCコンセプト
↓
必要な機能
↓
テナント選定
↓
館内配置
という流れで考えることが重要です。
さらに、テナント候補を選ぶ際には、リーシングマトリクスを活用することで、
- 集客力
- 売上力
- 回遊性
- 来館頻度
- SC適合度
などを比較しやすくなります。
そして、最も重要なのは、
「売れるテナントを集める」のではなく、「テナントの組み合わせによってSC全体を強くする」こと。
これが、SCにおけるテナントミックスの基本的な考え方です。
テナントリーシングでは、空いている区画を埋めることだけを目的にするのではなく、5年後、10年後のSCの姿から逆算してテナント構成を考えることが重要になります。


