ショッピングセンター(SC)や商業施設のテナントリーシングでは、空いた区画にテナントを誘致するだけではなく、テナントが退店する前、あるいは新しいSCが開業する前から計画的にテナントを誘致することが重要です。
その代表的な手法が、プレリーシングです。
プレリーシングは、新規SCの開業やリニューアル、テナント入替などを成功させるうえで重要なリーシング手法です。
では、通常のリーシングとは何が違うのでしょうか。
この記事では、プレリーシングの意味から、通常のリーシングとの違い、メリット・デメリット、進め方、成功させるポイントまで、SCリーシングの実務を意識して解説します。
プレリーシングとは?
プレリーシングとは、SCの開業・リニューアル・テナント入替などが実施される前から、あらかじめテナントを誘致・契約しておくリーシング手法です。
一般的なリーシングでは、空室が発生した後にテナントを探し、条件交渉を行って契約につなげます。
一方、プレリーシングでは、
「空床になる前」「施設が完成する前」からテナント誘致を始める
ことが大きな特徴です。
例えば、新しいSCを開業する場合、
施設計画
↓
テナント構成検討
↓
プレリーシング開始
↓
テナント決定
↓
契約
↓
内装工事
↓
SC開業
という流れになります。
つまり、プレリーシングは開業やリニューアルを成功させるために、早い段階からテナント構成をつくっていく活動と考えることができます。
通常のリーシングとの違い
プレリーシングと通常のリーシングの大きな違いは、リーシングを開始するタイミングです。
| 項目 | プレリーシング | 通常のリーシング |
|---|---|---|
| 開始時期 | 開業・リニューアル・退店前など | 空床発生後など |
| 主な目的 | 事前にテナントを確保 | 空床を埋める |
| テナント構成 | 計画段階から設計 | 既存構成を前提に検討 |
| 区画設計 | テナントに合わせて調整しやすい | 既存区画が基本 |
| リーシング期間 | 比較的長く確保できる | 短期間になりやすい |
| 交渉の自由度 | 比較的高い | 区画条件に制約されやすい |
| 重要な視点 | SC全体のテナントミックス | 空床区画への誘致 |
通常のリーシングが、
「空いた区画に誰を入れるか」
という発想になりやすいのに対して、プレリーシングは、
「これからつくるSCに、どんなテナント構成をつくるか」
という発想になります。
なぜプレリーシングが重要なのか?
プレリーシングが重要なのは、SCのテナントミックスを早い段階から設計できるからです。
SCの魅力は、個々のテナントだけで決まるものではありません。
例えば、
食品スーパー
+
ドラッグストア
+
キッズ
+
飲食
+
サービス
+
医療
という組み合わせによって、「日常生活をまとめて便利にできるSC」という価値をつくることができます。
このようなテナントミックスをつくるには、開業直前になってからテナントを探すのではなく、早い段階から計画的にリーシングする必要があります。
プレリーシングのメリット
1.開業時のテナント充足率を高められる
プレリーシングを行う最大のメリットの一つが、開業時点で多くのテナントを確保できることです。
開業直前までテナントが決まっていないと、
- 空床が発生する
- 開業時の集客力が低下する
- SCの印象が悪くなる
- オープニング販促が弱くなる
といった問題につながる可能性があります。
早期にテナントを確保しておくことで、開業時の施設完成度を高めることができます。
2.テナントミックスを計画的につくれる
通常のリーシングでは、空いた区画ごとにテナントを探すため、タイミングによっては「入居できるテナントを入れる」という判断になりがちです。
プレリーシングでは、SC全体の構成を見ながら、
- 食品
- ファッション
- 飲食
- サービス
- キッズ
- 医療
- 教育
- エンターテインメント
などのカテゴリーを計画的に組み合わせることができます。
つまり、
「空床を埋めるリーシング」から「SCをつくるリーシング」へ
発想を変えることができます。
3.区画をテナントに合わせて設計できる
プレリーシングでは、施設が完成する前にテナントを決めるケースがあります。
その場合、
- 必要面積
- 天井高
- 電気容量
- 給排水
- ダクト
- 厨房設備
- 看板
- 搬入動線
などを、テナントの出店条件に合わせて調整できる可能性があります。
通常のリーシングでは既存区画を利用するため、このような自由度は低くなります。
4.有力テナントと早期に交渉できる
人気テナントや出店意欲の高いテナントは、他のSCからも出店依頼を受けています。
そのため、開業直前になってから声をかけるより、
計画段階から出店候補として交渉する
ことが重要になります。
特に、
- 地域初出店
- エリア最大級の店舗
- 人気ブランド
- 大型専門店
- 集客力の高いテナント
などは、早期から交渉を進めることが重要です。
プレリーシングのデメリット
メリットがある一方、プレリーシングには注意点もあります。
1.早期に条件を決める必要がある
プレリーシングでは、施設が完成する前に契約を進める場合があります。
そのため、
- 賃料
- 契約期間
- 区画
- 面積
- 工事条件
- オープン時期
などを早い段階で決める必要があります。
後から計画変更が発生すると、テナントとの調整が必要になります。
2.商圏の将来予測が必要
開業前にテナントを決めるということは、将来の商圏や顧客ニーズを予測する必要があるということです。
例えば、
- 周辺人口
- 住宅開発
- 競合SC
- 道路整備
- 鉄道計画
- 消費者ニーズ
- EC市場
などを考慮する必要があります。
現在の需要だけではなく、
「SCが開業する時点で、どんなお客様が存在するのか」
を予測することが重要です。
3.テナントを早く決めすぎるリスクがある
早期にテナントを決めることがメリットになる一方で、状況が変化するリスクもあります。
例えば、
- 出店計画の変更
- 周辺競合の出店
- 市場環境の変化
- テナント企業の業績悪化
などです。
そのため、プレリーシングでは「早く決める」ことだけを目的にせず、将来性まで考えてテナントを選定することが重要です。
プレリーシングの進め方
プレリーシングは、以下のような流れで進めます。
STEP1:SCのコンセプトを決める
まず、
「どんなSCをつくるのか」
を明確にします。
例えば、
- 地域密着型SC
- ファミリー型SC
- 都市型SC
- 日常生活支援型SC
- 食を中心としたSC
などです。
STEP2:商圏分析を行う
次に、商圏を分析します。
主な分析項目は、
- 人口
- 世帯数
- 年齢構成
- 世帯所得
- 住宅開発
- 昼間人口
- 交通アクセス
- 競合施設
などです。
ここから、SCのターゲットとなる顧客像を明確にします。
STEP3:必要なテナントカテゴリーを決める
商圏とターゲットを踏まえて、必要なカテゴリーを整理します。
例えば、
ファミリー世帯が多い商圏
であれば、
食品
+
ドラッグ
+
キッズ
+
教育
+
飲食
+
医療
+
アミューズメント
などが候補になります。
STEP4:リーシングマトリクスで候補を評価する
テナント候補を集めたら、リーシングマトリクスを活用して評価します。
例えば、
| SCとの適合度:低 | SCとの適合度:高 | |
|---|---|---|
| 集客力:高 | △ 条件次第で検討 | ◎ 最優先候補 |
| 集客力:低 | × 優先度低 | ○ 補完テナントとして検討 |
さらに、
- 集客力
- 売上力
- 回遊性
- 来館頻度
- SC適合度
などを点数化すると、候補テナントを比較しやすくなります。
STEP5:有力テナントから交渉する
すべてのテナントを同じ順番で交渉する必要はありません。
まずはSCの核となる、
「核テナント」
を優先して交渉します。
核テナントが決まることで、その周辺に必要な専門店やサービスを組み合わせやすくなります。
STEP6:テナントに合わせて区画を調整する
テナント候補が決まってきたら、
- 区画面積
- 位置
- 導線
- 設備
- 工事条件
- 看板
などを調整します。
ここがプレリーシングの大きな特徴です。
STEP7:開業後を見据えてテナントミックスを完成させる
開業時にすべてのテナントが決まれば終わりではありません。
重要なのは、
開業後もSC全体のテナントミックスを維持・改善すること
です。
開業後の売上、来館者、顧客属性などを確認し、必要に応じてテナントの入替や追加リーシングを行います。
プレリーシングで重要な「核テナント」と「補完テナント」
プレリーシングでは、テナントを単純に並べるのではなく、役割を考えることが重要です。
| テナントの役割 | 主な目的 |
|---|---|
| 核テナント | SCの集客力をつくる |
| 集客テナント | 新規来館を生み出す |
| 売上テナント | SC売上を生み出す |
| 回遊テナント | 館内を回遊させる |
| 高頻度テナント | 来館頻度を高める |
| 滞在テナント | 滞在時間を伸ばす |
| 利便性テナント | 日常利用を促す |
| 差別化テナント | 競合SCとの差をつくる |
例えば、核テナントだけでSCを構成するのではなく、
核テナント+集客テナント+高頻度テナント+回遊テナント+差別化テナント
という組み合わせをつくることで、SC全体の価値を高められます。
プレリーシングを成功させる5つのポイント
① 「空床を埋める」ことを目的にしない
プレリーシングの目的は、開業時の空床をゼロにすることだけではありません。
重要なのは、
「SC全体として魅力的なテナントミックスをつくること」
です。
② 商圏から逆算する
テナントありきで考えるのではなく、
商圏 → 顧客 → ニーズ → 必要なテナント
という順番で考えます。
③ 有力テナントは早期にアプローチする
人気テナントは競合施設からも出店依頼を受けています。
そのため、SCの計画が具体化した段階から早めにアプローチすることが重要です。
④ テナント同士の相乗効果を見る
個々のテナントだけではなく、
「このテナントが入ることで、他のテナントにどんな効果があるか」
を見ることが重要です。
例えば、
食品スーパー
+
ドラッグストア
+
飲食
+
キッズ
の組み合わせによって、ファミリー層の日常利用を取り込むことができます。
⑤ 開業後のリーシングまで考える
プレリーシングは開業までのリーシングですが、本当の意味でのSC運営は開業後から始まります。
そのため、
プレリーシング → 開業 → 売上検証 → テナント入替 → テナントミックス改善
という長期的な視点が必要です。
プレリーシングと空床対策の関係
プレリーシングは、新規SCだけに有効な手法ではありません。
既存SCのリニューアルや大型テナント退店においても活用できます。
例えば、大型テナントが退店することが決まった場合、
退店
↓
空床発生
となってからリーシングを始めるのではなく、
退店決定
↓
後継テナントのプレリーシング
↓
契約
↓
旧テナント退店
↓
新テナント工事
↓
オープン
という流れをつくることができます。
これにより、空床期間を短縮できる可能性があります。
つまり、プレリーシングは空床率を下げるための重要なリーシング戦略でもあります。
まとめ
プレリーシングとは、
SCの開業・リニューアル・テナント入替などに先行して、テナントを計画的に誘致・契約するリーシング手法
です。
通常のリーシングが「空いた区画を埋める」ことを中心とするのに対し、プレリーシングでは、
「これからつくるSCに、どのようなテナントミックスをつくるか」
という視点が重要になります。
プレリーシングを成功させるためには、
商圏分析
↓
ターゲット設定
↓
SCコンセプト
↓
テナントミックス設計
↓
リーシングマトリクスによる候補評価
↓
有力テナントとの交渉
↓
区画・導線調整
↓
開業
↓
開業後のテナントミックス改善
という一連の流れで考えることが重要です。
特にSCのリーシング担当者にとっては、「空床を埋める」という短期的な視点から、「SCの将来価値をつくる」という長期的な視点へ転換することが、プレリーシングの最大のポイントと言えるでしょう。


