ショッピングセンター(SC)を運営するうえで、「テナントリーシング」は非常に重要な業務です。
SCには、食品スーパー、ファッション、雑貨、飲食、サービス、医療、エンターテインメントなど、さまざまなテナントが入居しています。
しかし、単純に空いている区画へ店舗を誘致すればよいわけではありません。
SCの商圏やコンセプト、顧客ニーズ、競合施設などを分析したうえで、
「どのテナントを、どの区画に、どのような条件で誘致するか」
を考える必要があります。
これがSCにおけるテナントリーシングです。
日本ショッピングセンター協会によると、2025年末時点で国内SCは3,013施設、総テナント数は164,545店舗、1SCあたりの平均テナント数は55店舗となっています。SCに多数のテナントが集積する中で、テナント構成そのものがSCの競争力を左右する重要な要素になっています。
出典:一般社団法人 日本ショッピングセンター協会「SC白書/全国のSC数・概況」
この記事では、ショッピングセンターのテナントリーシングについて、基本的な意味から、具体的な業務、テナント選定、賃貸条件、テナントミックス、リーシングマトリクス、プレリーシングまで、SC・商業施設の実務目線で解説します。
テナントリーシングとは?
テナントリーシングとは、SCや商業施設の区画に入居するテナントを誘致し、契約・出店までつなげる業務のことです。
簡単に言えば、
「商業施設に入ってもらう店舗を探し、条件を交渉し、出店してもらう仕事」
です。
ただし、SCの場合は単純な店舗誘致とは異なります。
SCには複数のテナントが入居するため、あるテナントを誘致することで、
- 他テナントの売上が伸びる
- 館内回遊が増える
- 来館頻度が高まる
- SCのブランドイメージが向上する
- 競合施設との差別化になる
といった効果が期待できます。
そのため、SCのテナントリーシングでは、
「そのテナントが儲かるか」だけではなく、「SC全体にどのような効果があるか」
まで考えることが重要です。
テナントリーシングの目的
テナントリーシングには、大きく5つの目的があります。
1.空床を減らす
最も分かりやすい目的が空床対策です。
空き区画が増えると、
- SC全体の売上低下
- 来館者数の減少
- 館内の賑わい低下
- SCイメージの悪化
- 他テナントからの不満
などにつながる可能性があります。
そのため、空床を適切なテナントで埋めることはリーシングの基本的な役割です。
ただし、
「空床を埋めること」=「良いリーシング」
ではありません。
短期的に空床が埋まっても、SCとの相性が悪ければ、将来的な退店につながる可能性があります。
2.テナントミックスを最適化する
テナントリーシングでは、SC全体のテナント構成を考える必要があります。
例えば、
- ファッションばかり多い
- 飲食が少ない
- キッズ関連がない
- 生活サービスが不足している
- 日常利用テナントが少ない
といった状態では、商圏ニーズに合わない可能性があります。
そのため、
商圏ニーズ × SCコンセプト × テナント構成
を考えながらテナントを誘致します。
3.集客力を高める
テナントには、それぞれ異なる集客力があります。
例えば、
- 大型食品スーパー
- 人気専門店
- 大型家電店
- 人気飲食店
- エンターテインメント施設
などは、SCへの来館目的になりやすいテナントです。
一方で、クリーニング、保険、修理などは広域集客力が大きくなくても、日常利用を支える重要なテナントです。
したがって、
集客テナント+高頻度テナント+回遊テナント
を組み合わせることが重要になります。
4.SC全体の売上を高める
テナントリーシングでは、個々のテナントの売上だけを見るのではなく、SC全体への波及効果を見ることが重要です。
例えば、人気の飲食店を誘致すると、
飲食目的で来館
↓
他店舗を回遊
↓
買い物
↓
カフェ利用
という行動が生まれる可能性があります。
つまり、1店舗の誘致が他テナントの売上にも影響します。
5.SCの将来価値を高める
リーシングは、現在の空床を埋めるだけの仕事ではありません。
人口動態、EC化、競合SC、新しい消費行動などを考慮し、
「5年後、10年後にも選ばれるSCをつくる」
という視点が重要です。
テナントリーシングの基本的な流れ
一般的なSCのテナントリーシングは、次のような流れで進みます。
商圏分析
↓
SCコンセプト確認
↓
必要なテナント業種の設定
↓
候補テナントのリストアップ
↓
テナントへのアプローチ
↓
出店条件の交渉
↓
区画・設備条件の調整
↓
契約
↓
開業準備
↓
オープン
重要なのは、テナントへのアプローチを始める前に、SCとして「どんなテナントが必要なのか」を明確にすることです。
STEP1 商圏を分析する
リーシングの出発点は商圏分析です。
確認する代表的な項目は、
- 人口
- 世帯数
- 年齢構成
- 世帯構成
- 子育て世帯
- 高齢者
- 所得水準
- 昼間人口
- 夜間人口
- 住宅開発
- 交通アクセス
- 競合SC
- EC利用状況
などです。
例えば、ファミリー世帯が多い商圏なら、
- キッズ
- 子供服
- 玩具
- 教育
- ファミリーレストラン
- クリニック
などの需要が高くなる可能性があります。
逆に高齢者が多い商圏なら、
- 医療
- ドラッグ
- 健康
- 美容
- 生活サービス
などの重要性が高くなります。
つまり、
商圏を知らずにリーシングを始めると、テナントミックスがずれる可能性がある
ということです。
STEP2 SCコンセプトを決める
商圏分析の次に重要なのがSCコンセプトです。
例えば、
「地域の日常生活を支えるSC」
なのか、
「週末に家族で楽しむSC」
なのか、
「広域から顧客を集める大型SC」
なのかによって、必要なテナントは変わります。
例えば「日常生活型SC」であれば、
食品
+
ドラッグ
+
医療
+
美容
+
生活サービス
などが重要になります。
一方、「広域集客型SC」なら、
大型専門店
+
ファッション
+
飲食
+
エンターテインメント
+
体験型テナント
などが重要になります。
STEP3 必要なテナント業種を決める
次に、「どの業種が必要なのか」を整理します。
ここで重要なのが、
不足している業種=誘致すべき業種ではない
ということです。
例えば、SCに美容室が1店舗しかなくても、周辺に美容室が多数存在するなら、さらに誘致する必要性は低いかもしれません。
逆に、SCにクリニックがなく、商圏内にも不足しているのであれば、クリニックは重要なリーシング候補になります。
したがって、
商圏ニーズ × SCとの適合度 × 集客力 × 来館頻度 × 収益性
などで評価する必要があります。
STEP4 テナント候補をリストアップする
必要な業種が決まったら、具体的なテナント候補をリストアップします。
例えば、
| カテゴリー | 候補テナントの考え方 |
|---|---|
| 食品 | 地域シェア、集客力、価格競争力 |
| ファッション | ターゲットとの適合性 |
| 飲食 | 人気、地域性、客単価 |
| キッズ | ファミリー集客力 |
| 医療 | 商圏ニーズ、診療科 |
| 美容 | 来館頻度、ターゲット |
| エンタメ | 広域集客力、滞在時間 |
| 生活サービス | 日常利用性 |
| ペット | 商圏需要、競合状況 |
| リユース | 集客力、将来性 |
というように整理できます。
STEP5 テナントへアプローチする
候補テナントが決まったら、出店可能性を確認します。
リーシング担当者がテナント企業へ、
- SC概要
- 商圏
- 区画
- 面積
- 賃料条件
- 開業時期
- 周辺テナント
- 来館者数
- 売上実績
- SCコンセプト
などを説明し、出店を提案します。
ここでは、単純に「空き区画があります」と伝えるのではなく、
「このSCに出店することでどのようなメリットがあるのか」
を伝えることが重要です。
STEP6 出店条件を交渉する
テナントが出店を検討する段階になると、具体的な条件交渉を行います。
代表的な項目は、
- 賃料
- 共益費
- 売上歩率
- 保証金
- 契約期間
- 内装工事区分
- 営業時間
- 休館日
- 販促費
- 開業時期
- 原状回復
- 中途解約条件
などです。
リーシングでは、単純に「高い賃料を取る」ことが正解ではありません。
テナントの収益性を考慮し、
テナントが継続的に利益を出せる条件
を設定することも重要です。
テナントの出店継続性がSC全体の安定にもつながるためです。
STEP7 区画・設備条件を調整する
テナントが決まったら、区画や設備の調整を行います。
例えば、
- 面積
- 間口
- 天井高
- 電気容量
- 給排水
- ガス
- 排気
- 厨房
- 看板
- 搬入動線
などを確認します。
特に飲食、医療、フィットネス、エンターテインメントなどは、通常の物販店舗より設備条件が複雑になる場合があります。
そのため、リーシング担当者だけではなく、設計・設備・施工担当者との連携も重要です。
テナント選定では「売上」だけを見ない
リーシングでありがちな失敗が、「売上が高そうなテナントを優先する」ことです。
もちろん売上は重要ですが、それだけでは不十分です。
例えば、
| 評価項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 集客力 | 来館目的になるか |
| 売上力 | 高い売上を期待できるか |
| 来館頻度 | 日常的に利用されるか |
| 回遊性 | 他テナントへ顧客を送れるか |
| 滞在性 | 滞在時間を伸ばせるか |
| 差別化 | 競合SCとの差別化になるか |
| 相乗効果 | 他テナントと相性が良いか |
| SC適合度 | SCコンセプトに合うか |
| 収益性 | テナントとして継続できるか |
| 将来性 | 5年後、10年後も必要か |
このような複数の視点から評価することが重要です。
リーシングマトリクスを活用する
テナント候補を比較する際には、リーシングマトリクスが有効です。
例えば、
横軸:商圏ニーズ
縦軸:SCとの適合度
で分類します。
| SCとの適合度 高 | SCとの適合度 低 | |
|---|---|---|
| 商圏ニーズ 高 | 最優先で誘致 | 条件を見ながら検討 |
| 商圏ニーズ 低 | 差別化目的で検討 | 優先順位低 |
さらに、
- 集客力
- 来館頻度
- 売上期待
- 賃料負担力
- 面積効率
- 差別化
- 相乗効果
- 出店可能性
などを点数化すると、候補テナントを客観的に比較できます。
テナントリーシングとテナントミックスの関係
テナントリーシングとテナントミックスは密接に関係しています。
テナントリーシングが「テナントを誘致する活動」だとすれば、テナントミックスは「誘致したテナントをどのような構成にするか」という考え方です。
例えば、
食品スーパー
+
ドラッグストア
+
ファッション
+
飲食
+
キッズ
+
医療
+
美容
+
エンタメ
という構成にすることで、複数の来館目的をつくることができます。
つまり、
リーシング=個々のテナントを獲得する活動
テナントミックス=SC全体のテナント構成を設計する考え方
と整理すると分かりやすくなります。
プレリーシングとは?
SCのリーシングには、通常の空床リーシングだけではなく、「プレリーシング」という考え方があります。
プレリーシングとは、SCの開業、リニューアル、テナント退店などが発生する前から、あらかじめテナントを誘致・契約しておくリーシング手法です。
例えば、大型テナントが退店することが事前に分かっている場合、その退店後にリーシングを開始するのではなく、退店前から後継テナントの誘致を進めます。
これにより、
退店
→ 空床
→ テナント探索
→ 契約
→ 開業
という期間を短縮できる可能性があります。
また、SCのリニューアルでは、工事計画と並行してテナントを決めることで、テナントに合わせて区画や設備を調整できる場合があります。
そのため、プレリーシングは、
「空床を埋めるためのリーシング」から「将来のテナントミックスを先に設計するリーシング」
へ発想を広げる方法とも言えます。
良いテナントリーシングとは?
良いテナントリーシングとは、単純に空床率を下げることではありません。
重要なのは、
「SC全体の価値を高めるテナント構成をつくること」
です。
例えば、
集客テナント
+
高頻度テナント
+
回遊テナント
+
滞在・体験テナント
+
サービス
を組み合わせることで、SCへの来館目的を複数つくることができます。
そして、
来館
↓
回遊
↓
滞在
↓
購買
↓
再来館
という流れを生み出せれば、SC全体の売上・顧客満足度・競争力の向上につながります。
これからのテナントリーシングで重要になること
今後のSCリーシングでは、従来以上に「物販以外」のテナントが重要になると考えられます。
EC市場の拡大によって、商品を購入するだけならオンラインでも可能になっています。
一方で、
- 医療
- 美容
- フィットネス
- キッズ
- エンターテインメント
- ペット
- 教育
- 生活サービス
などは、リアルな場所で提供する価値が大きい分野です。
そのため、これからのSCでは、
物販+飲食+サービス+体験
という構成をどのように組み合わせるかが重要になります。
また、日本ショッピングセンター協会のデータでも、SCテナントに占めるサービスの構成比は2020年の19.9%から2025年には20.8%へ上昇しています。
出典:一般社団法人 日本ショッピングセンター協会「SC白書/全国のSC数・概況」
まとめ|テナントリーシングは「SCの未来をつくる仕事」
ショッピングセンターのテナントリーシングとは、単に空いている区画へ店舗を誘致する仕事ではありません。
基本的な流れは、
商圏分析
→ SCコンセプト設定
→ 必要業種の抽出
→ テナント候補選定
→ アプローチ
→ 条件交渉
→ 区画・設備調整
→ 契約
→ 開業
です。
そして、リーシングで最も重要なのは、
「このテナントを入れることでSC全体がどう変わるのか」
を考えることです。
集客力の高いテナント、高頻度で利用されるテナント、回遊を生むテナント、滞在時間を伸ばすテナント、地域に必要なサービスを提供するテナント。
これらを組み合わせることで、SC全体の価値を高めることができます。
これからのSCリーシングでは、
「空床を埋めるリーシング」から「SCの未来をつくるリーシング」へ
という発想が、ますます重要になるでしょう。


